直島

直島は岡山県と香川県の中間に位置する小さな島です。地図で見る限り何の変哲もない島ですが、今では日本のみならず世界中から注目を集める島となっています。

直島の歴史は古く、邪馬台国の時代には人が住んでいたと伝わっています。もともと塩の製造やノリの養殖、ハマチの漁などが盛んで、江戸時代には海運の要所の一つだったこともあり、この島は栄えていました。しかし明治に入ると漁業や海運業は衰退し、人口流出が問題になっていきました。島の衰退の打開策として直島が行ったことが、島の北部に精錬所(現在の三菱マテリアル)を受け入れることでした。こうすることにより、直島はいわゆる企業城下町となり、昭和にかけて再度発展していきました。


(直島の港では現在でもノリの養殖やハマチ漁などが行われています)

しかしながら、精錬所から出る煙は美しい自然を破壊することになりました。精錬所で産出される銅も国際的価値が下がる中、直島と精錬所は新たに舵を切り替えねばなりませんでした。そこで行ったことが、精錬所がリサイクル事業の開始と拡大することであり、直島がアートの島として再生することでした。


(フェリーから見た直島北部、精錬所の様子です。はげ山の理由は煙害ではなく、火災の影響です。)

直島をアートの島として再生するための音頭をとったのが、ベネッセホールディングスでした。世界的に有名な建築家安藤忠雄監修の元、1989年に「直島国際キャンプ場」を完成させると、1992年には美術館とホテルが一体となった『ベネッセハウス』の一つである『ミュージアム』をオープンさせました。

確かに、過疎の村に現代美術作品を展示することに懐疑的な目もあったことは事実です。また町民も当初は半信半疑でした。
転機は1997年から始まった『家プロジェクト』でした。古民家を現代美術として再生させるこのプロジェクトは、町民とアーティストが一体となって芸術作品を創り上げるものもあり、これによって「ヒト、モノ含む島のすべて」が一つの芸術作品となっていったのです。
直島のアートプロジェクトはやがて世界中からも注目を集めるようになりました。2010年には瀬戸内国際芸術祭の第一回が開かれるなど、直島は今もまだ進化し続け、他の島々をけん引する存在となっています。

島の周囲は16kmほどですが、観光ポイントは島の南半分が大半を占めています。西側の宮ノ浦エリア、東側の本村エリア、南側のベネッセハウスミュージアム周辺エリアの三つのエリアに分けることができます。
もちろん歩いて回ることも可能ですが、バスやレンタサイクルを利用することをお勧めします。バスは便数にも乗車人数にも限りがありますので、繁忙期には時間に余裕を持って行動しましょう。瀬戸内の潮風を感じながら走るレンタサイクルは、バスを待つこともなく次の目的地に行くことができますが、所々アップダウンが激しい場所もあります。体力に自信のない方は電動アシスト付き自転車を利用するのがいいでしょう。

《宮ノ浦エリア》

宮ノ浦は岡山の宇野港や香川の高松港からの船が発着する港がある場所です。
到着前から目に入ってくるのは草間彌生の作品『赤かぼちゃ』。今では直島のシンボル的な存在となっており、直島の玄関口で観光客を出迎え、見送っています。フェリーターミナルは金沢の21世紀美術館や現在パリの老舗百貨店「ラ・サマリテーヌ」の改修を担当しているSANAAという建築家ユニットによって設計されました。またこの地区には前衛的な現代アートで大竹伸朗が作り変えた銭湯『I♥湯』(アイ・ラブ・ユー)や、飯山由貴によってパチンコ屋から生まれ変わった『宮浦ギャラリー六区』など様々な作品があります。



《本村エリア》

島の東側に位置する本村地区にも港がありますが、宮浦港に比べて規模が小さく、高松港、宇野港、豊島発着の一部の高速船の港として使われています。ここのターミナルもSANAAが設計しており、球体をくっつけ合わせた泡のような外観をしています。
ここでの見所はやはり「家プロジェクト」でしょう。このプロジェクトは、かつて人の営みがあった過去の記憶をアートとして具現化し、現在に調和させ、未来へ伝えるという目的で、ベネッセと安藤忠雄の主導により始まりました。現在「家プロジェクト」によって再生した作品は7つあります。すべて狭い範囲に集中しているので、歩いて見学することができます。



宮島達男の作品が展示される「家プロジェクト」第一号の『角屋』や、杉本博司が手がけた『護王神社』、ジェームズ・タレルの作品の為に安藤忠雄が設計した『南寺』など日常と非日常が混ざり合う空間をお楽しみください。
またこの辺りにはお洒落なカフェやゲストハウス、食堂などもたくさんあります。芸術が風景に溶け込んだ集落の雰囲気を楽しみながら、しばし憩いの時を過ごしてみてはいかがでしょう。



《美術館エリア》

町営バスは宮浦港を出発すると本村地区を通過し、昔の漁村である積浦地区を通り抜け、終点つつじ荘に到着します。つつじ荘前には琴弾地(こだんぢ)浜という美しい浜があり、夏期には海水浴客で賑わいます。また草間彌生の黄色い『南瓜』が、海に突き出した桟橋にポツンと置いてあるのも見えるでしょう。



つつじ荘から先は自転車も走行が禁止されているため、ここから先のベネッセの美術館エリアはベネッセのフリーシャトルバスに乗り換えるか徒歩での移動になります。シャトルバスは基本的には町営バスの到着に合わせて出発していますが、一番遠い地中美術館まで徒歩30分ほどで行くことができますので、景色や屋外の作品などを見ながら歩いていくのもいいでしょう。

つつじ荘を出発して見えてくるのは『ベネッセハウスミュージアム』です。



『ベネッセハウスミュージアム』はホテルと一体型の美術館で、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトとして安藤忠雄が設計しました。ベネッセと安藤忠雄が組んで初めに作られたもので、作品の大半は作家が現地で作成しており、館内から客室、屋外まですべてが展示スペースとなっています。空間全体を使ったインスタレーションアートなど現代芸術が展示され、敷地内全体余すことなく美術館と言っていいでしょう。
次に「李禹煥(リ・ウーファン)美術館」が見えてきます。李禹煥と安藤忠雄のコラボレーションによる美術館で、安藤忠雄設計の半地下構造の建物に、「もの派」という芸術運動の第一人者である李禹煥の作品が展示されています。

そして最後に到着するのが「地中美術館」です。



地中美術館はその名の通り美術館全体が地中に埋まっており、クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの3人の芸術家の作品のみ展示しています。建物と作品が一体となっており、作品は全てここ以外で見る事のできないインスタレーションアートになっています。非常に人気がありますが、「人間と自然を考える場所」というコンセプトがあるので、同時に多くの人を入れることを避けるため、現在は事前予約制となっています。
該当する商品がありません