「瀬戸の夕凪」

2019年 06月07日


瀬戸内海の気候は独特なものです。夏の季節風に乗ってやって来る雲は中国山地がブロックし、冬の季節風と共にやって来る雲は四国山地がブロックします。瀬戸内海は、いわば雲の真空地帯です。日本では珍しく、空気は乾燥し、日照時間は長く、そして暑いです。特に夏の夕暮れは風が完全に止まり、外に出るのが面倒になってしまいます。

エンジンが発明させるよりも昔、瀬戸内海はでは凪の時間になると船が全く進みませんでした。また潮の流れも時間ごとに変化するので、いつ最適な出航時間なのかを見極めねばなりません。そのため寄港地で出航を待つ「風待ち、潮待ち」の文化が生まれました。また全国から船乗りたちが訪れることによって、港は活気づいたといわれています。
潮の流れは瀬戸内海に大きな恩恵をもたらしています。海運もしかり、漁業しかりもです。潮の流れが速いので、魚のエサになるエビが良く泳ぎ、筋肉質になるので身が甘くなります。それを魚たちが食べるので、彼らも自然に身が甘く、また引き締まり、美味しくなるのです。海の恩恵だけではなく、瀬戸内海に流れる多数の川からの良質なミネラルも、魚の美味しさに一役買っています。
瀬戸内海に住まう人、また通り過ぎる人は常に自然と共にあります。潮と風の流れで人間の行動が決まるのだから、自然は力強いですね。

さて、夏の凪の時間に戻りましょう。風は止み、夜のとばりとともに訪れる涼しさは感じられません。あまりにも暑いので、この時間はあまり人気がありません。自然の力だといえるでしょう。
でもこの瞬間、海のしじまの向こう側に沈む太陽の景色は、瀬戸内海で最も美しい時だといわれています。静寂を破るものはなく、静かに鏡のような海面に沈みゆく太陽を眺める時間が、「瀬戸の夕凪」の醍醐味なのです。